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珈琲記

敬愛するコーヒー研究家、井上誠氏の著書より題を借り、私もここに、私が愛したコーヒーを記そうと思う。

Chapter15.アルミニアの面影

ロイヤルコペンハーゲン史に思いを馳せて

 皆が思い浮かべる北欧の食器といえば、まずおそらくは出てくるロイヤルコペンハーゲン。この窯は現在も洋食器のなかで強い人気を誇るブランド窯のひとつで、控えめで素朴な王冠のかわいらしいロゴが特徴だ。

 王冠(ロイヤル)というと、やれロイヤルドルトンだ、ロイヤルウースターだ、ロイヤルクラウンダービーだと、いろいろとあって混乱してしまう人もいるらしいし、私も実際最初期はそうだった。

 さて、このロイヤルコペンハーゲンだが、有名な話だと例えば同じデンマークで切磋琢磨したこちらもブランド窯「ビングオーグレンダール」を買収統合した、なんて話は意外と有名。

 ビングオーグレンダールというと、かわいらしいカモメが描かれた淡い水色の器が有名で(シーガル)、しかしこの器は買収統合されたのちにコペンハーゲンのバックスタンプで再生産して輸出するなどしたものだから、日本なんかだとみんなコペンハーゲンの器だと思っていたりするものだ。

 あとはロイヤルコペンハーゲンのブルーが、伊万里焼の染付からくるものだとか、そういったありふれた話はみんな知っているもの。

 

 しかし、果たしてこちらの話を知る人はなぜかあまりいないのであった。

 今日はその「こちらの話」を少し書き記しておこうと思う。

 

■知られざる窯

 ロイヤルコペンハーゲンの器の中で、白磁器ではない、くすんだクリーム色の陶磁器の類がある。

 FAJANCE(ファイアンス)と呼ばれるその製品は、ロイヤルコペンハーゲンのバックスタンプが付くFAJANCEであれば、FAJANCEとバックスタンプに書かれている。

 さて、このFAJANCEと呼ばれる製品は、もとはというとアルミニアというデンマークの窯から始まっている。

 1862年に設立され、陶磁器をして豊かな色彩を持たせたFAJANCEで有名な窯だった。しかし国内外で人気を博すのはもう少し後の1950年代からで、時代を若干先取りしてしまったのだった。

 このFAJANCE製品は、焼成後の冷却で陶土と釉薬の収縮率が違うためにおこる貫入が趣とされ、ひとつとして同じものはないとして買い集める愛好家(コレクター)が続出したのである。

 

 ……さて。

 意外と知られていていないのが、これだ。

 1884年、アルミニア窯「が」当時のロイヤルコペンハーゲン窯を買収。王室御用達のコペンハーゲンを買収したのち、アルミニアは自らの製陶工場の名前をコペンハーゲンとして名称を統一した。

 つまり、ロイヤルコペンハーゲンは、FAJANCEの製陶をして生きたアルミニアにより永らえたのであって、しかしここがみな知らないのだ。

 

■アルミニアの鬱金

 その中でも有名な作品といえば、これだ。

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 Pic.1 - ロイヤルコペンハーゲン: トランクェーバー(左がS Size、右がM Size)

 

 和名で「鬱金香」というと、チューリップのことだ。

 これは当時、デンマークの植民地であった南インドにて、クリスチャン・ヨアヒムというデザイナーが見た一輪のチューリップが描かれている。

 そのチューリップは黙して語らないが、その逸話からさまざまな推測をしてこの器を語る人が多い逸品だ。

 

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 Pic. 2,3 - 一つ一つが手描き、その器でのみ咲く永遠の花だ。

 

 ちなみにこの花を描いたデザイナー、クリスチャン・ヨアヒムは、アルミニア時代からのコペンハーゲンを成功へと導いたデザイナーの一人として言われている。

 

 さて、実はこのトランクェーバーを「アルミニアの」器として出したのはなぜかというと、理由としては二つだ。

 一点目は、これから書く内容の補足を行うにあたって、私の持つわずかなコーヒーカップの在庫では、この器でしか語れなかったから。

 そして、もう一点目が本題。

 

■歴史の証人

 ロイヤルコペンハーゲンのFAJANCE製品は、実は1969年のものまではアルミニア窯のバックスタンプがついていた。

 今市場に出回っているFAJANCE製品は当然のこと、アンティークを探そうとしてもなかなか1969年以前のものがないので、これもあまり知る人がいない。

 

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 Pic. 4,5 - アルミニア窯のバックスタンプ。Aの文字に見える。ちなみにM Sizeのもの

 

 上記の写真のバックスタンプがまさにそうだ。

 1969年から先、これが以下のようになる。

 

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 Pic. 6,7 - 1969年以降のバックスタンプ。S Sizeのもの。FAJANCEの文字が見える

 

 私の手持ちにそれぞれ時代を跨いだ2つのトランクェーバーがあったので、このような記事を書く気になったが、こうして現物を目の当たりにすると自分の知らぬ歴史を追体験している気分になるものだ。

 

■アルミニア(Aluminia)の面影

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 Pic. 8 - 左が1969年以降、右が1969年以前。これがどういうことか、記事を読んだからもうわかるはず

 

 いつの時代もコーヒーはそこにあって、その液体が着飾るドレスがあった。

 もちろん我々が生きている今現在だって、我々の生活やライフスタイルに即したコーヒーと、彩を与えるためのコーヒーカップがある。

 その営みは30年、50年、100年、200年前と変わらない、コーヒーを愛する我々と、我々に寄り添う黒い液体のためにあるのだった。

 

 私はそんなことを思いながら、見たこともないデンマークの風とアルミニアの窯の暖かさに口をつける。

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